◆解説1:社民党とスウェーデンの政治

 スウェーデンは、19世紀後半から20世紀前半に掛けて、それまでの貧しい農業国家から工業国家に変貌した。これは、鉄鉱石や材木など天然資源が豊富にあったこと、高い水準の科学技術が開発されたこと、こうした資源をヨーロッパの先進諸国へ輸出できたことによる。労働者の人口の増加に伴い、労働者階級の利益のために社会改革をめざす政党として、スウェーデン社会民主労働党(以下、社民党)が1889年に結成された。社民党は1920年に、選挙による世界初の社会主義の単独政権を樹立し、それ以降長期にわたって政権を担当してきた。社民党の長期政権を可能にした要因として、労働者側に立った現実的な経済政策と社会福祉政策を打ち出したこと、共産主義のイデオロギーに固執することなく資本主義的な要素と社会主義的な要素を組み合わせた「第三の道」を模索し、他の政党との間の妥協を見いだしていったことがある。
 社民党は、中立・平和主義を掲げ、自由・平等・公正・連帯の実現を目標に、歴代党首により実験的な改革を行なってきた。この改革の一例として、プライバシー保護と情報公開制、選挙権・被選挙権年齢の18歳への引き下げ、二院制から一院制への切り替え、各種オンブズマン制度がある。
 1998年4月現在、国会議員総数は349名、そのうち女性議員が144名(44%)もいる。女性議員が多いのは、民社党が男女平等の実現を重要な政治課題とし、政治の場でも女性を参加させようと、議員候補者名簿の順位リストに男女の名前を交互に掲げているからである。大臣は全て社民党員で、女性大臣は半数を占めている。 
 なお政党間競合の基本単位は、社民党と左党(左共産党から変更した)の「社会主義ブロック」と、保守派の穏健党、中道派に属する国民党と中央党、キリスト教民主社会党を合わせた「ブルジョア・ブロック」の主に2ブロッグからなり、ブロック政治と呼ばれている。
 社民党★ 161名 社民党のシンボルマーク
 左党★ 22名
 穏健党(保守派)◇ 80名
 国民党(中道派)◇ 26名
 中央党(中道派)◇ 27名
 キリスト教民主社会党◇ 15名
 環境党(緑の党)▲ 18名 
 注)★:社会主義ブロック183名,◇:ブルジョア・ブロック148名,▲:その他18名(1998年4月16日)


■関連項目 福祉国家への建設

◆解説2:年金制度

 公的老齢年金には国民基礎年金、国民付加年金、および補足年金がある。国民基礎年金の満額受給資格者は、これまでの所得に関係なく、スウェーデンに最低40年間住んでいるか、30年間就労していた人。この条件を満たしていない場合は減額支給される。1997年の月額は単身者2,864kr(48,688円)、有配偶者2,327kr(39,559円)。
 一方国民付加年金は、年金のために支払ってきた保険拠出金の還元を目的とし、年金額はこれまでの所得をもとに算出される。1995年までは、稼得所得が最も高い15年間の基礎額をもとにして算出されていた。この年金制度に対して、一時期だけ所得が高い肉体労働者には有利で、所得変動の平坦な者には不公平であるという批判が出ていた。1996年の年金改革では、国の年金給付支出を抑制する意図もあり、16歳以降に取得した全ての所得が年金支給額に影響することになる。この改革により、前述のような不公平な所得の再分配が是正される。しかし一方、育児期間パートで所得が低くなる女性にとっては、この制度は非常に不利となっている。
 補足年金は、金額が生活保障の最低線より低い場合に支給されるもので、1997年の最高月額は1,645kr(27,965円)である。
 私的年金には、協約年金、企業年金、個人年金がある。協約年金は全国労使団体によって結ばれ、ITP(ホワイトカラーを対象)、STP(ブルーカラーを対象)、国家公務員年金(国家公務員を対象)、地方公務員年金(地方公務員を対象)がある。企業年金は各企業によって運営されるもので、個人年金では各個人が保険会社と契約を結び保険料を支払うものである。
 基礎額(basbelopp)はさまざまな社会保険給付の計算の基礎として使われる。その金額は毎年物価にスライドする形で定められる。1997年の年額は3万6,300kr(617,100円)。

出典)奥村芳孝1996『スウェーデンの高齢者福祉最前線』193頁の図表を参考に作成
■関連項目 経済保障